ヴァーチャル幻想 短編
飼育下では育成できない動物に触れ合う機会をどのようにして設けるかという点において、VRつまりヴァーチャル・リアリティが注目を浴びる時代。
すぐれた未来の技術では触感も臭いもすべて目の前にあるかのように再現され、ジャイアントパンダの尻尾にもアフリカゾウの牙にも頬ずりできる。
そんな技術は個々人の生活にまでいずれ普及してきて、病気で死んだイエネコのぬくもりも、車に轢かれたポメラニアンの臭いも暮らしに再び戻ってきて、ついにはこないだ往生したオジイチャンまで食卓を一緒に囲めるようになる……のではないか。
そうなってくると、生きているものと生きていないものの違いはなんだろう、それならば不完全なこの世界で生きるよりも、早く理想のヴァーチャル世界で、汚れないまま美しいままの存在になりたい。
そう考え、必要なデータを残しこの世の身体を棄てようとした青年は、いまわに気づく、周りの家族や友人はすでにみなヴァーチャルの存在で、自分が最後の生身の人間であったと……。
2017/03/01